第8回 団地再生卒業設計賞 入選作

第8回団地再生卒業設計賞の審査会が2011年5月14日に開催されました。

入選された方々をお知らせします。2011年6月13日に開催され

た一般社団法人団地再生支援協会の総会にて表彰式が行なわれました。

 

 

<団地再生卒業設計賞 内田賞>

砂田 正太  東京芸術大学

「地元産業による団地再生」

 昭和33年に建設された荻窪団地(杉並区)をターゲットに、この地域では地場産業といってもいいくらいスタジオ が集中する杉並区における「アニメ制作」の拠点に変換しようという提案。「団地再生」というと、集合住宅を再生す るのに主に集合住宅、プラスアルファとして何らかのコミュニティ・生活サポート機能を加えるというタイプの提案が 多い中で、産業をメインに宿泊棟としてだけ生活機能を残すという設定にしたことで、団地を細分化するのではなく、 より大きな覆いで囲い取るようなスケールが獲得でき、魅力的な提案とすることに成功している。「再生」のプロジェ クトでは、「何もない更地より、再生すべき何かがあってよかった」というように見えることがいちばん大事な点であ るが、このプロジェクトは、フリーハンドや水彩のドローイングによる表現も含めて、たいへん上手く複数の時間軸の 並置や、そのことによる記憶の継承などを描き出した。アニメ上映から導かれた、「大きい暗がり」を持つ空間なども たいへん魅力的であり、高度成長期の途端に現れた団地の「明るい」イメージの変換とも読める。よって審査員全員の 賛同を集め本年度の内田賞に選出された。(小嶋一浩)

 

<団地再生卒業設計賞>

福田 恭平  明星大学大学院

「減築の風景」

 

まず評価すべきと考えたのは、実際の団地を取り上げた点だった。このコンペの本来の目的に合っているから当然 といえるが、しかし、コンペ応募案の半分くらいは、団地の敷地を再利用する計画であり、団地の建物は取り壊して しまうのが、残念である。つぎに評価したのは、先行する事例研究をちゃんとやっていることで、ドイツのライネフ ェルデの経験の分析はよくできている。日本のUR都市機構によるルネッサンス計画の分析も、興味深い。二つの事 例研究から9つのモデルケースを選んでいるが、必要なケースは満たしているといえよう。しかし、あまりにまっと うなモデルケースばかりであり、一つか二つでいいからトンデモないケースも加えておいてほしかった。たとえば今 回の大地震のような時、突然、多くの住宅が必要になるが、そのような非常時を想定したようなケースもあるのが望 まれる。さらに望を加えるなら、建物だけでなく、周辺環境の整備の計画も立ててほしかった。減築に合わせ、道路 や緑も考える必要がある。建築は減築だが、緑やその周辺の環境にとっては増築となる。その増築のシステムも、計 画的にはとても面白い問題と思う。全体として、明日にでも実行できる計画であり、学生の計画としては珍しいとい えよう。(藤森照信)

 

 

堀越 和宜  東京大学

「そこに住み続けるということ」

 

大蔵団地(世田谷区)をターゲットとした、今住んでいる高齢者を立ち退かせることなく団地全体を穏やかに再生しよ うという提案。内田賞の砂田案とは異なり、住棟には細やかに手を加えるだけで団地の風景を保全する。提案の骨格は 、改修中の高齢者の「仮住まい」の場所を兼ねた小さなパブリックスペースとなる建築を4つ、敷地の中に提案してい ることである。高齢者の一時転居の困難さが団地再生の足かせになっているという事実に着眼し、そこをデザインの梃 子とした。「仮住まいとしての公共施設」をシェアハウスによって実現し、コミュニティも加速させようというものだ 。全ての住棟の再生が完了した後でも、こちらに住み続けたいという人も出てきそうである。このように住み替えのプ ログラムという時間軸をテーマとしたことが「団地再生」のコンペ故高く評価された。惜しまれるのは、建築のデザイ ンが部分の論理で完結してしまい、団地全体を一つのものとしてとらえ切れていない点である。せっかくの恵まれた大 きな敷地なのだから、団地内部の活性化にとどまらない魅力を敷地に与えるようなデザインの指向も加わっていいので はないだろうか?(小嶋一浩)

 

<団地再生卒業設計賞 奨励賞>

後宮 淳一 大阪工業大学 「縮小開発」

審査に参加してあらためて「団地再生」の対象の幅の広さを感じた。一番わかりやすいのは既存の建築を部分的にいかしながら改修したり、用途変更したりすることだが、広義にとらえれば、対象地域の周辺の街全体の活性化・再生をはかることが目的であってもよさそうだ。となると、対象地の全面建替えも再生に含まれそうだし、そのような提案も多かった3.11東日本大震災では復興か復旧かで議論がある。そこでも再生の意味が根本から問われている。「縮小開発」と題したこの提案は、公害の戸建て住宅地を対象として、空き家の一部を整理統合しながら老人医療施設を整備し、さらに空き地を農業園場に転換していこうとするものだ。コンバージョンをする際には解体した廃材を活用し資源循環に役立てるのがポイント。高度成長期に急増した大都市郊外の戸建て住宅地を、社会の時代的構造変化に合わせて徐々に改修・転換し、最終的には都市農業を担うエコロジカルなスローライフ団地にすることが構想されている。論理的な構築もしっかり組み込んだ労作。(小玉祐一郎)

 

 

 

概評 内田 祥哉

 前回同様、応募者のこの課題に対する理解レベルは高まっている。今回は古い団地を敷地として利用しながら、丸ごと建替える新築案が目立ったため、これを再生として、どう捉えるかについて審査員の間で意見の交換があった。古い団地の中で大きく育っている樹木が注目され、建物は減築、緑は増築という考えは定着しつつある。減築で出来た空地は農園などへの転用による緑の増築とあわせて、高齢者のための医療施設の整備に転用される案も増えている。高齢者の扱いに対する関心の中では、改築の間の一時移転も高齢者にとっては困難であることをとらえ、周辺の地域と関連性で解決を図ろうとする提案が注目された。団地の生活と、周辺居住者との関係が注目されるようになったのは数回前からであるが、今回は地域に芽生えたアニメ産業を呼び込んで、希薄になった居住条件を再編成しようという具体的な提案が注目された。よく勉強している応募作品も多かったようで、団地再生支援協会の出版物も、よく読まれ、参考にされているという。それは、当協会そのものの社会的評価の高まりであると見てよいだろう。審査員が、毎年一人交代する三年人気のシステムが安定してきた結果、審査の視点は、急激には変わらないが、今回は、環境の麺に新たな視点が向けられた。

 

 

審査委員:(敬称略)

内田 祥哉(東京大学名誉教授 審査委員長)

小嶋 一浩(横浜国立大学大学院“Y-GSA” 教授)

藤森 照信(工学院大学 教授)

小玉 祐一郎(神戸芸術工科大学 教授)

 

団地再生設計賞

受賞作品をご覧いただけます。