AWARD
卒業設計賞

2019

第16回 集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 審査結果

集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 内田賞

森 亮太  名城大学
多文化共生社会を意識した学生たちによる地域コミュニティ環境づくり

【講評】
60年代に建てられた知立団地を舞台にした、学生達による地域再生のためのプロジェクトである。
三つのステージのワークショップを主体にした取り組みが明快で力強い。ステップ1は「団地を知る」と題して、フィールドサーベイを中心とした調査を行っている。ステップ2は「場をつくる」と題して、もう一歩踏み込んで、プレイス・メイキングの手法も取り入れて住民らと一緒に組み立てながら交流の場を生成している。ステップ3は「仲間とつながる」と題して、さらに踏み込んで4回のワークショップを通して持続的なコミュニケーションの場を設けている。
高齢者だけでなく、特に外国人が増えつつある知立団地の住民の特性に配慮しつつ、コミュニケーションが一方通行にならないよう、住民を巧みに巻き込みながらも、共同作業を通した意思の疎通をはかっている。そして、そこに学生自身がメディア媒体として、実践的にコミュニティに介入していく仕掛けづくりとなっている点が大変興味深い。
この2018年度に行ったこれらの三つのステージを土台にして、2019年度には、さらに活動を継続し、外国人らと日本の高齢者を繋ぐ場づくりを行っていくという。団地再生という視点においても、今後の成果が楽しみとなる新しいプロジェクトが始まった。
田島則行(千葉工業大学工学部建築都市環境学科 助教/テレデザイン)

集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞

齋藤 あずさ    椙山女学園大学
継承:時間と生命 -廃村:太平宿を活用した希少動物保護研究施設の提案-

【講評】
1970年に廃村となった中山間部の旧集落を、希少動物のすみかとしながら森に返すプロジェクトである。作者の齋藤さんが問うたのは、人が長く手を入れてきた環境が、自然に対してどう向き合うかである。ふつうなら、民家をリノベーションして、人を呼び込んで、地域を盛り上げて…、と明るい提案に向かっていきたくなるものである。しかし、齋藤さんが下したのは、ここを人のための環境として維持し続けていくのは現実的に難しい、という判断だった。そこで、朽ちていく民家を絶滅の危機に瀕する動物のすみかとして差し出すプロジェクトが立案される。そのことが森を見守る人の営みをまた生む、というストーリーは、縮小の時代にあっても建築に未来を見る学生のみずみずしさだろう。半世紀前、かつての住民は、この地の産業を支えたカラマツを植林して、集落を離れたそうである。この作品は、住まいを森に戻そうとしたその思いを、新しく引き継いでいる。
森田 芳朗(東京工芸大学工学部建築学科 准教授)

【概評】
団地再生が、住民生活の再生ととらえるようになったのは当然であるが、住民の中に外国人の生活が取り込まれたのは、ごく最近のことであろう。そこに学生の目が届くのは当然と言えば当然ではあるが、学生の目が届いたのは、本年の新たな現象である。本年度の「内田賞」は、その難しさを、三つのステージに分けて考えたところが作者の新しい発想であり、それによって団地という生活の場の具体的再生手段がとらえられるとしている。そして、そこに高齢化した管理組合には出来ない学生のエネルギーをつぎ込むことが考えられており、将来の日本の都市生活、延いては将来の日本人を育てる団地生活の姿を見いだせるのかもしれない。
「学生賞」は、個人的には、全く発想しなかったことである。だが、このような提案こそが、学生の発想であり、学生賞といえるのではないか。たとえ現実離れしたところがあるとしても、こんな発想を持つことこそが学生生活の糧になるのではないか。自然の力を借りることは、見えざる手を借りることでもあるかもしれないから、予想もしない効果を生む可能性が、あるのかもしれない。
内田祥哉(東京大学名誉教授 審査委員長)